科学的思考のレッスン 戸田山和久
その名前の通り、「科学的思考はどの様な思考方法か」「なぜ市民が科学的思考方法を身につけねばならないか」を論じた本。特に原発問題の以後に書かれていたということもあり、著者なりに「科学リテラシ―を有した、議論に参加する市民」の成長をが世の中に必要だろうというモチベーションが強くうかがえる。その態度も、啓蒙的ではなく、同じ目線からの市民的な立場で行われている点は好感が持てる。
一人の科学者としては、やはり前半の「科学的思考」の解説が相当役に立った。別著「科学哲学の冒険」に通じるところもあるので、新しい情報はさほどなかったが、例を多く持ち上げながら説明していく展開は見事の一言。
「科学的思考とはかようなものである」という骨組みが既にあって、それを例を交えながら増やしていったらこんな分量になりましたってパターンの本だと思うわれる。それにしても、この文章量は自分にはまだできない。ただ、この骨組み==>肉付けの文章作成手順は参考になる。
個人的なハイライトは、やはり仮説演繹的推論の強力さであろうか。しかし、この推論が真理保存ではないことは、強く自戒すべきである。
- 科学的思考
- 理論t事実という二分法で分類してはいけない
- 科学とはより良い仮説を求めていく営み
- (1) より多くの予言を為せる
- (2) アドホックな仮定を極力含まない
- (3) すでに分かっている多くの事柄を、できるだけ多く・同じ方法で記述できる
- 説明は正体不明の事実(裸の事実;ただ受け入れるしかない事柄)を少しずつ減らしていく事を目的にする
- (1) 原因を突き止める
- (2) 一般的な理論から具体的な例を導ける
- (3) 正体を突き止める
- 推論
- (1) 演繹的推論 (真理保存、情報は増えない); しかし意味がないわけではない(数学の定理)
- (2) 帰納的推論 (蓋然的、情報増える)
- (3) 仮説演繹的推論
- 推論をより詳しく
- 帰納法 (induction) : 個別の例から一般性を導く
- 投射 (projection)
- 類比 (analogy)
- アブアクション (abduction): あるものを仮定すれば、仮説をうまく説明できる
- 仮説演繹的推論
- 予言して、その仮説の尤もらしさを導く
- しかし、論理的には真理保存ではない点に注意
- 尤もらしい仮説を生き延びさせる (ポパーの反証主義)
- 仮説の検証
- (1) 反証条件を与えることが重要
- (2) 検証のための実験はコントロールされねばならない (2×2を意識)
- (3) 相関から因果関係は帰結できない
- 科学技術だけでは答えられない問題
- そもそもの科学技術の希少性 (全員が100%の享受はできない)
- トランス・サイエンス: 科学と政治の境界領域 (価値判断を含む)
- 科学技術そのものの問題 (科学技術”で”ではなく、科学技術”を”どうするか、という問い)
- (1) 倫理の空白地帯 (e.g. 出生前診断)
- (2) 技術はそもそも、不完全なまま世に放たれる
- 科学リテラシー
- 大衆ではなく、科学リテラシ―を有した、建設的な市民たれ(コミットしているか?)
- 対話という形を通して、社会を形作っていく主体
- 科学者による啓蒙 (パターナリズム)という姿勢も、もうやめなければならない
- 科学の健全性
- 確かに不祥事も多いが、それを見つけているのも科学
- 民主主義的な営みが基本的には営まれている
- ネタ
- ダーウィンの進化論は、生物の進化に関する不完全さを有した理論である。
- インテリジェント・デザインも同様。不完全な理論ではあるが、等価に時間を与えて教育すべき。