柳田邦夫「空白の天気図」
原爆のあと広島を襲った大型台風と、困難な中で観測を続ける気象台職員の話。まず,観測をベースに真実をつかんでいこうとする態度に感銘を受ける.現代の気象研究は,どうしても数値モデルによる外挿研究が多くなっているが,そもそもの科学の始まりは観測を主体にした帰納と演繹であったことを改めて認識する.
内容もさることながら、膨大なの情報収集と、その間を埋める物語創作のテクニックが素晴らしい。この辺りは,作者が記者時代の情報収集能力によるところも多い.
テーマは違うが,似たようなことは,山崎豊子の「大地の子」,新田次郎「点の記」&「八甲田山死の彷徨」,遠藤周作「侍」&「沈黙」,司馬遼太郎(多数)にも思う.
限られた情報から実態を推測する,という行為は,この本主人公の命題でもあるし,また,この本の作者の命題でもある.科学にも通じる.