2019.04.28 [読書] ものぐさ精神分析

岸田秀 ものぐさ精神分析.
正直,フロイトの精神分析の骨子をつかんでおかないと厳しい.その面で,自分は勉強不足.
この本の本題は,社会のダイナミクスを切り取る一つの指標として,精神分析を用いていること.
江戸時代以降の歴史の変遷を,精神分析の立場から分析している点が面白い.

社会科学って,科学的なんだなとなんとなく思わされる本.ただ,批判的に見ることもできる.
結局,「ある仮説で世界を説明できる」と言って,それに合う事例を持ってきているのだ.
しかし,そこに,自分の仮説に合う事例だけを持ってきて見せているのではないかという疑義は残る.
この点に関しては,別の名作,大沢真幸の「虚構時代の果て」にも似たようなものを感じた.—-


  • 勉強の課題
    • 精神分析
    • 発達心理学
  • 個人の人格発達
    • 新生児: 客観的には無能であるが,主観的には全能(欲しいものが与えられる)
    • 幼児期: 無能な自己の形成
      • この「無能な自己」と「全能な自己」が,以後葛藤(精神分裂)を続けていく
    • 思春期:
      • 「自己の全能性」を母親に投影する.しかし,母も全能でないことに気付き,非行に走る
    • 反抗期以後
      • 「全能な自己」は「理想の自己」に転換される
        • 抑圧される.この抑圧されたものは,聖化されたモノの中の穢れを見つけたい欲求を生む.
      • 「無能な自己」は「現実の自己」に転換される
  • 主張: 江戸時代以降の日本が,「全能の自己」と「無能な自己」の葛藤の様に見える
    • 江戸時代: 鎖国.なんでも言う事が叶う
    • 江戸末期: 開国.無能な自己に気付く.
    • 明治以降: 全能な自己の卓越.戦争へ.
    • 大戦以後: 無能な自己がまた卓越.
  • その他
    • 文明社会の3つのタブー
      • 父殺し(エディプス・コンプレクス)
      • 近親相姦
      • 子捨て
      • これをタブー視したのは,もともとそのような潜在的な欲求があるのだ
    •  擬人論と唯物論
      • 擬人論・意味論: 人間の性質を持ち込んで,説明する(e.g. 神様が怒っているのが雷)
      • 唯物論: 所詮,全ては物理化学的な反応に過ぎない
      • 太古の昔は,擬人論
      • 科学の発展と共に唯物論が主流になり,疑似論は古い時代のものとされた.
      • しかし,ここで神経症や精神病が,唯物論では解明できなくなった
        • 精神疾患の症状に,意味があることをフロイトが指摘した
        • ヒステリーや強迫神経症には,意味がある.
    •  意味付け
      • そもそも,周囲の様々な現象は,「モノの因果」と「意味の因果」が入り組んでいる
      • 問題は,当人が周りに起こる嫌な出来事に,「どのような意味付けを行っているか」である
    •  神話
      • 神話が神話として自覚されるのは,共同幻視が共同化されなくなってから
      • 現代にも,呪術・物心崇拝・神話が多く含まれている.
      • しかし,その共同幻視が覚めない限り,それは自覚されない
        • e.g. 結婚したら幸せになるという共同幻視など
    • 3タイプの研究者 (筆者の視た心理学研究分野)
      • (1) 外国の理論を紹介するだけ
      • (2) 重箱の隅をつつくような細かいテーマ
      • (3) 一般向けに走る
    • 自己嫌悪: 「架空の自分」が「現実の自分」を嫌悪している状態
      • 自己嫌悪していながら,同じ行為を繰り返すのは何故か?
      • 自己嫌悪とは,嫌らしい欲望を持った時,その欲望と清廉な自分のどちらも断念したくない時の表れ
        • つまり,本当の自分はそうじゃないんだけど,という言い訳なのだ.
    •  不当な欲望を正当化する時,その正反対のセルフイメージを作り上げる(ルサンチマン)
      • うまい汁を吸いたい ==> 自分は生きるのが下手
      • 子供を利用したい ==> 自分は子供に対して自己犠牲的な親である
      • けちである ==> 自分は気前が良すぎる
      • 邪悪な攻撃サディスティズム ==> 正義の味方
      • つまり,セルフイメージと客観的な姿は反対な関係にある
  • その他のその他
    • 「自分は母親に愛されていたんだ」と認識たいがために,人は,母親によって得た虐待を他者に加える

 


メモ: 自分自身は精神分析分野の不勉強なのだが,多くの子供は以下のような成長の変遷をたどる.
以下,wikipediaの心理性的発達理論・リビドー論(性本能)より.

  • 口唇期: 満1歳ごろまで
    • 母乳を吸うことと関連し、リビドーの満足は主に口唇周辺に求められる.
    • 依存的、常に人に頼り自主性がなく社交的、寂しがり屋で孤独を怖れる。
  • 肛門期: 2,3歳
    • 排泄のしつけと関連し、肛門の感覚を楽しむ。具体的には排泄後の快感
    • 几帳面、ケチ、頑固、自分の世界を他人に乱されるのを極端に嫌う。反面、ルーズでだらしない。
  • 男根期: 5,6歳まで
    • 関心が男根に集中する時期
    • 攻撃的、積極的、自己主張が強く人前に出ることを怖れない。リーダーシップを取りたがる。
  • 潜在期: 学童期
    • 幼児性欲は一時影をひそめ、子供の関心は知的方面に移行し、比較的感情が安定する時期。
  • 性器期: 思春期以降
    • 初めて性器を中心とした性欲の満足が求められる時期
    • 具体的な言及はないが、成熟した感情を持ち、人を愛し受容できる、いわば理想的人格


ものぐさ精神分析 (中公文庫)

  • kotsuking
  • 関東の某国立大学、教授。他に、JST・さきがけ研究員、理研・客員研究員、気象予報士。京都大学大学院で博士(工学)を取得。
    スーパーコンピューターを駆使して天気予報の改善に取り組むデータ同化研究者。座右の書は「7つの習慣」。

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