20120518 [読書] 動的平衡

動的平衡 (生命はなぜそこにやどるのか)
動的平衡2(生命は自由になれるのか)

1. 人の記憶とは?

人の記憶はどの様にストックされるのか? 昔を思い出すとき,何か頭の奥の方から情報を引っ張り出してるイメージがある.しかし,生命は常に代謝を繰り返しているので,特定の物質を維持するのは難しい.実は物質としてはストックされていない. 記憶は,物質としてではなく,脳の回路として保存される.ある記憶が,脳に回路として記憶され,その一部を刺激する事で回路が再生されて記憶が蘇るのだ。

これは非常に面白い指摘で,こう考えれば色々と理解できる面も多い.例えば性格もそういう回路が強化されているので,そこに電気が流れ安くなている,と考える事ができる.また,よくある自己啓発本で,”こういう人間になりたい”と強く意識すれば,そういった人間になれるのだ,等という記述を良く見かける.こういう一見,その因果関係が良く分からないような事例にも,回路を強化する,と考えれば理解する事が出来る.こういうのが理解できると,自分の性格をより善くしようという努力が実に結びやすい気がする.なんでも,理解できていた方が,それを実行するときの意思の強さになるので.

2. 体内時計の仕組み

なんで,年をとるとだんだんと時間が長く感じるのか.この点について,細胞生理学の点から解説している.曰く,「新陳代謝速度の低下によるもの」だそうだ.

極端な例えとして,若いころは10日で入れ替わっていた細胞が,20日で入れ替わるように代謝速度が下がるとする.しかし外的な時間は変わらないので,体内時計の感覚として,「えっ,もう一年経ったのか?」となる,とのこと.これはこれで理解しやすいが,先ほどの脳の回路の面から,自分自身でも考えてみた.感じる時間の長さとは,脳に新しく刻まれる回路の量なのではないかと.

一般的には,ルーティンワークをやっていると,あっという間に時間が過ぎて行く気がする.だとすれば,「あー,一年早かった」っていうのは,「あー一年,あんまり吸収することが無かった」っていうのと同義なのかもしれない.確かに今でも,学会とかで海外に行くと,2,3日を非常に長く感じる.常に時間は長く感じていたいものである.

そもそも,脳自体は,なるべくエネルギー消費を抑えるために,”関連付け”で回路を固定していくものらしい(ここは福岡伸一の言).ランダムなものの中に関連性を見ることができれば,記憶の固定量は大幅に低下する.年を経るにつれ,これまでの回路が色々あるので,それに関連付けて覚えて行こうとするのは,生物としては当たり前なのかもしれない.

3. 合成と分解との動的な平衡状態の効果こそが生命

メインテーマ.全ての物質はエントロピー増大の法則から逃れられず,やがて崩壊する.生命は,そのエントロピー増大から逃げるのではなく,その前に壊しては再構築,といったプロセスを手に入れたのだ.

生命は,行く川のごとく流れの中にあり,その流れを止めないために私たちは食べ続ける.すべての細胞は,崩壊と再構築を繰り返す.個体は,感覚としては外界と隔てられた実体として存在するように見えるが,分子の流れのみに着目すると,たまたまそこだけが密度が高い淀みにすぎないのだ.生命とは,その動的平衡状態の効果にすぎない.

これは,かなり新しい生命観である.この様にして,生命は永続的(サブティナブル)なシステムを手に入れたのだ.サブティナブルなシステムとは,何かを物質的・精度的に保存する取り組みではないことが分かる.

4. 何故植物は動かないのか?

この反対は,何故動物は動くのか,である.知らなかった問題があって,植物には必須アミノ酸というものが無いらしい.その一方で,どの動物も必須アミノ酸がある.必須アミノ酸とは,生命が自分のなかで合成できないアミノ酸である.

ニワトリが先か,卵が先か分からないが,動物が他の個体を吸収する理由は,自分の中で合成する事ができないアミノ酸を吸収するためだそうだ.

5. DNAの情報量

ここは単なる知識としてのメモ.
大腸菌:4.6MB
ヒト :3.0GB
小麦 :17.0GB

植物の方が多いのか!
ちなみに,地球上の色々な生命の物質重量を比較すると,
1位:トウモロコシ8億t
2位: 小麦   6億t
3位: 米    5億t

とのこと.地球外生命が地球を観察したら,この惑星を支配しているのはトウモロコシで,彼らはヒトに世話をさせて隆盛を極めているように見えるだろう.これもなかなか面白い視点.

ところで,DNAの情報量は,意外と少ないと感じないでしょうか.DNAとは,あるタンパク質を合成するレシピみたいなもん.例えば,人間とチンパンジーのDNAは2%位しか違わない,とのことだがもっと違っているように見える.

より情報量を増やすにはどうするか.そのタンパク質を合成するタイミングをずらす.ここも脳の回路とおんなじで,場合の数が効果を発揮する.

  • kotsuking
  • 理研・計算科学研究センター研究員、文部科学省卓越研究員、気象予報士。
    京都大学大学院で博士(工学)を取得。
    スーパーコンピューターを駆使して天気予報の改善に取り組むデータ同化研究者。
    座右の書は「7つの習慣」。

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